九州・佐賀県は、静かな山あいに名湯と伝統工芸が共存する、知る人ぞ知る文化の宝庫。とりわけ「嬉野温泉」「武雄温泉」と「有田焼の里」は、湯と器、それぞれの“手のぬくもり”を感じられる地域として、深く記憶に残る旅先だ。ゆっくりと過ごす1泊2日、あるいは2泊3日の滞在で、日本の美意識と静けさに触れる旅へ出かけてみよう。
嬉野温泉|とろける湯に包まれる“美肌の湯”
嬉野温泉は、九州でも屈指の“美肌の湯”として知られ、とろみのある重曹泉が特徴。肌にやさしくなじみ、湯上がりはすべすべに。源泉かけ流しの温泉宿が多く、日帰り入浴施設や足湯カフェも点在しているため、滞在スタイルに合わせて楽しめる。
宿泊は、川沿いの落ち着いた和風旅館や、モダンなデザインの温泉宿がおすすめ。夕食には地元の佐賀牛や湯豆腐、嬉野茶を使った会席料理が並び、滋味深い食との出会いもこの地ならではの贅沢だ。
また、嬉野は「日本三大美肌の湯」のひとつとして知られるが、それだけでなく嬉野茶の産地としても有名。茶畑が広がる風景と、地元の茶舗でいただく淹れたての一杯に、身体の内側からも整えられていく感覚が味わえる。
武雄温泉|歴史と建築美が漂うレトロな湯の街
嬉野から車で約30分、武雄温泉へと足をのばすと、そこには赤い楼門が印象的な「武雄温泉楼門」が迎えてくれる。設計は東京駅の辰野金吾によるもので、和洋折衷の美しいデザインが旅の気分を高めてくれる。
武雄温泉の湯はアルカリ性単純泉で、さらっとしながらも深く温まると評判。明治から昭和の風情が残る共同浴場や、武雄温泉新館など、歴史ある浴場で過ごす時間は、まるで時を巻き戻すような特別なひとときとなる。
街には図書館を中心とした文化施設やアートギャラリーもあり、“静かに過ごす旅”を求める大人にふさわしいスポットが充実している。
有田|400年続く“器の里”で、手仕事と対話する
武雄からさらに足を伸ばせば、焼き物の町・有田がある。有田焼は日本最古の磁器として知られ、色絵の繊細さと白磁の透明感が魅力。町には多くの窯元やギャラリー、アンティークショップが並び、歩くごとに器の表情と人の手の温もりに出会える。
「有田陶磁の里プラザ」や「アリタセラ」では、窯元直営のショップで器を手に取りながら買い物ができ、旅の記念にもぴったり。さらに、陶芸体験ができる施設もあり、自分だけの作品をつくる“参加型の旅”も楽しめる。
春には「有田陶器市」、秋には「秋の陶磁器まつり」などイベントも充実。旅の時期に合わせて訪れると、より深く器文化に触れることができる。
湯と器に癒される、佐賀の静かな時間
佐賀・嬉野から武雄、有田へとめぐる旅は、表面的な観光ではなく、静かにじんわりと心に染み入るような体験の連続。身体を温泉で癒し、器を通して手仕事に触れる——そんな贅沢な時間を求めるなら、佐賀のこのルートはまさに最適な選択だ。