2025/06/28
ご飯に生卵!? “TKG”はありか、なしか

「ご飯に生卵」をかける、いわゆる“TKG(たまごかけごはん)”は、日本では極めて身近な家庭食だが、世界的に見ればかなり特異な食文化のひとつだ。卵を火を通さずに食べるという行為に、驚きや抵抗を感じる外国人は多い。しかし、日本ではこれが“朝の定番”として長く親しまれており、その背景には日本人特有の感覚と、食品衛生に対する高い信頼がある。

まず、TKGが成立する最大の要因は、生卵の安全性にある。日本の養鶏業界では、鶏の飼育管理から卵の流通まで一貫した衛生基準が徹底されており、サルモネラ菌などのリスクを極限まで抑える体制が確立されている。そのため、賞味期限内であれば生食が“前提”という珍しい状況が成り立っている。

味の面でも、TKGは独特の魅力を持っている。炊きたての白米に、卵のまろやかな甘みとコク、醤油の塩気が重なることで、シンプルでありながら深い満足感を生む。日本人にとっては、「余計なものを足さずに素材だけで完結する」究極のミニマル料理でもある。好みに応じて海苔やネギ、鰹節などを加えるアレンジも豊富で、シンプルながら奥深い“自分だけの味”を追求する楽しみがある。

ただし、万人にとって“あり”とは限らない。口当たりのねばりや冷たさが苦手な人もおり、海外ではそもそも生卵の流通・保存環境が異なるため、日本国外での再現には注意が必要だ。さらに、宗教的・文化的な理由で生卵を食べない人も存在し、日本人が当たり前に思っていることが通用しないケースも少なくない。

それでも、TKGは「日本人らしさ」を象徴する食のひとつとして、一定の支持を集めている。朝の忙しい時間でも手早く作れ、余計なものを削ぎ落とした料理でありながら、温かさや家庭の記憶を伴っている。それが、単なる“時短ごはん”ではなく“文化”として成立している理由だ。

結局のところ、“TKGはありか、なしか”という問いは、好みと環境によって答えが分かれる。だが少なくとも、日本という国では、シンプルであることを尊び、素材を信じるという食文化が、日常の風景のなかにしっかりと根を張っている。そしてその一杯のごはんは、食卓に小さな幸せと、自国の技術と感性への誇りをそっと添えている。