旅行先でドラッグストアに立ち寄ると、目に飛び込んでくるのは整然と並べられた市販薬の棚。風邪薬、目薬、胃腸薬、湿布、花粉症対策、痛み止め。どれも日常的に使われているものばかりだが、よく見ると“まとめ買い”をしている日本人の姿がある。それほどまでに信頼され、常備薬として欠かせない日本の市販薬は、初めての訪日旅行者にとっても、確実に手に入れておきたいアイテムである。
なぜ日本人が自国の薬を買いだめするのか。その理由のひとつは、効果のバランスにある。即効性と穏やかさを兼ね備え、必要以上に強くない。成分が明確で、副作用が出にくいよう設計されていることも大きい。頭痛薬ひとつとっても、眠くなりにくいタイプ、胃に優しいタイプ、女性向けに開発されたものまで幅広く、用途に応じて細かく選べるようになっている。
実際に人気が高いのは、日常の小さな不調に対応できる薬だ。たとえば、目の疲れに効く目薬や、肩こりや腰痛に使える貼り薬、軽い風邪に対処する総合感冒薬、胃の不調に効く制酸剤など。これらは薬としての敷居が低く、薬局で気軽に購入できるため、自宅に常備する人が多い。旅行者にとっても、体調の変化に備えて持っておくと安心できる存在になる。
日本の市販薬が外国人観光客にも人気な理由は、第一に“品質”である。製造や流通の管理が徹底されており、パッケージの表記や説明書の内容もわかりやすい。中には英語や中国語などで成分と用途が書かれている商品もあり、はじめてでも選びやすい。また、薬剤師のいる店舗では、症状を伝えれば適切な商品を紹介してくれるため、言葉に自信がない旅行者にも安心だ。
「風邪っぽいけど病院に行くほどじゃない」「ちょっとお腹の調子が悪い」「旅先で眠れない」そんな軽微な症状を自分でケアする文化が日本には根づいている。そうした背景から、多くの人が“あらかじめ備える”ことを意識して、ドラッグストアで薬を買い置きする。市販薬を薬箱に揃えておくことは、家庭の基本のように考えられている。
さらに、使いやすさとデザイン性の高さも魅力だ。個包装で持ち運びしやすく、錠剤のサイズや形状にも工夫がある。服用回数やタイミングがパッケージにわかりやすく記載されており、忙しい日常でも迷うことなく使える。旅行中のスーツケースやポーチにも収まりやすく、持ち歩きのストレスがないのも評価されている。
季節限定の製品や、特定の症状に特化した新商品が次々と登場するため、日本の薬を“探しに行く”こと自体がショッピングの目的になることもある。リピーターの中には「この薬は日本でしか買えないから」と定期的にまとめ買いをして帰る人も多く、日本の市販薬は“旅の収穫”のひとつとして確実に定着している。
暮らしの中で静かに使われ続けてきた日本の市販薬は、日常の安心を支える存在であると同時に、日本らしい価値観のひとつを象徴しているとも言える。「病気になる前に備える」「薬も自分で選ぶ」「毎日を丁寧に整える」そんな意識が、小さなパッケージの中に込められている。
観光客にとっても、それは決して他人ごとではない。旅先で安心を得るためのアイテムとして、日本の市販薬は間違いなく信頼できる存在だ。ドラッグストアで買う一本の薬が、帰国後の暮らしまで変えてくれる。日本人が買いだめする理由を、実際に使ってみて納得したという声はあとを絶たない。旅の荷物に余裕があるなら、少し多めに手に取ってみても損はないだろう。