マッチをこすり、小さな火種を枝に移し、徐々に大きくなる炎をじっと見守る。焚き火には、電気では得られない“時間の流れ”と“心のゆとり”がある。森の中で行われる親子向けの焚き火教室は、自然の中で火と向き合いながら、親子で過ごす穏やかで贅沢な時間を育むプログラムとして、静かな人気を集めている。
この体験は、ただ火をつけて暖をとるだけではない。森の入口でスタッフと合流したあと、まずは周囲を散策しながら、焚き火に使う枝や枯れ葉、松ぼっくりなどの天然の燃料を自分たちで集めるところからスタートする。足元の落ち葉の音、風で揺れる木々の声、土の匂いを感じながら歩くその時間もまた、焚き火の準備の一部だ。
火を起こす工程では、ライターではなくファイヤースターターやマッチなどを使い、最初の火をどう育てるかをじっくり学んでいく。風の向きや湿度を見ながら、細かい枝から少しずつ太い薪へと燃え移らせる作業は、集中と観察の連続であり、成功したときの達成感はひとしおである。
親子で参加することで、普段の生活とは違った“役割”が生まれる。子どもが火種を守り、大人が枝を組む。あるいは逆に、子どもが手を動かし、大人が黙って見守る。言葉を交わさなくても、火を中心にした時間の中では、自然と呼吸がそろっていく。不便さを共有することが、心の距離を近づけてくれる。
火が安定してきたら、その周囲に小さなテーブルや椅子を並べ、薪のパチパチという音をBGMにしてティータイムを楽しむことができる。焼きマシュマロ、ホットココア、地元のクラフトビールなどが提供されることもあり、食と火を共に囲むことで、心と身体が同時にほぐれていく。
このような焚き火教室では、「火は危ないもの」として距離を取ってきた現代の暮らしを見直す時間にもなる。使い方を知り、付き合い方を学ぶことで、火は“危険な存在”ではなく“あたたかく支えてくれる存在”へと印象を変える。特に子どもたちにとっては、「はじめての火」と向き合う貴重な記憶になるだろう。
プログラムは安全面にも十分配慮されており、インストラクターのサポートのもとで行われる。焚き火のそばには火消し用の水が常備され、必要に応じて安全レクチャーも事前に行われる。道具の貸し出しも充実しており、手ぶらで参加できる場所が多い。
外国からの参加者も歓迎されており、英語対応スタッフや多言語パンフレットが用意されている会場もある。日本語がわからなくても、火と自然を介した体験は、言葉に頼らない共感の時間を生み出してくれる。家族でひとつの火を囲むという普遍的な行為は、国籍や文化の違いを超えて心に響く。
焚き火の周りに集まり、湯気の立つカップを手に語らうひととき。夜が更けてゆく森の中で、炎が照らす顔を見つめながら過ごす時間は、旅の中でも特に静かで濃密な記憶となる。道具が便利になった現代だからこそ、あえて“火を起こす”という原始的な体験に価値がある。
森の中で火と向き合う数時間。それは、自然と人、親と子、自分と自分を、そっと結び直す時間でもある。




