2025/07/03
親子で回る市場の探検ツアー 五感で楽しむ“食べものの入り口”を歩く

活気ある声、魚の匂い、野菜を並べる音、湯気の立つ屋台。市場は、食材がただ並んでいるだけの場所ではない。人の暮らしと食文化が生きている“台所のような風景”だ。親子で市場を歩きながら、食材にふれ、出店者の話を聞き、買い物を楽しむ「市場の探検ツアー」は、食べものの背景を学ぶ旅の入り口として、多くの気づきをもたらしてくれる。

このツアーでは、地元のガイドや市場に詳しい案内人が同行し、旬の食材や地域ならではの品、売り手との会話などを通じて、子どもたちに“食の裏側”を紹介する。集合場所に集まり、地図を手に歩き出すとすぐ、色とりどりの野菜、丸ごとの魚、乾物や漬物、香ばしいお惣菜の香りが迎えてくれる。売り場の並び方、値札の書き方、声のかけ方すらも、子どもにとってはすべてが新鮮な情報だ。

ツアーの途中では、「この野菜の名前は?」「この魚はどこから来たの?」といったクイズ形式のやりとりも交えながら、食材に対する興味を引き出していく。手に取って重さを感じたり、香りをかいだり、触感の違いを確かめたりと、五感を使った体験が自然に行われる。生きている魚を間近で見る、水菜や大根の葉のかおりをかぐ、干物と生魚の違いを手で感じる──こうした感覚的なふれあいは、教室では得がたい学びとなる。

多くのツアーでは、参加者が少量ずつ買い物をする時間も設けられている。子ども自身が自分の目で選び、手に取って「これを買いたい」と決める経験は、食への関心だけでなく、主体的な判断力や金銭感覚を育てる小さな一歩になる。お店の人とのやりとりも、旅ならではの“初めての社会体験”となり、大人のサポートのもとで安心してチャレンジできる。

買い物のあとは、近くのキッチンスペースや調理施設でミニ調理体験を行うコースもある。たとえば、買った野菜で味噌汁を作ったり、焼き魚にチャレンジしたり。調理は簡単なものであっても、「自分が選んだ食材を使って料理する」という経験は、食べることへの関心と感謝の気持ちを育てる力がある。

親にとっても、普段は忙しさの中で省略してしまう「買い物から食卓までの流れ」を子どもと一緒にたどることで、家庭の食事がいっそう意味のある時間に変わっていく。旅の中でのこうした体験は、帰宅後の買い物や料理の時間にも好影響を与えると言われている。

市場は、地域の“おいしい”が集まる場所であると同時に、暮らしの縮図でもある。並ぶ食材からは気候や地理が、店主との会話からは方言や人柄が感じられる。旅先でその土地を知るには、まず市場に足を運ぶのが一番だと語るリピーターも少なくない。

外国からの旅行者にとっても、ローカル市場を歩く体験は“生活の中のリアルな日本”を知る貴重な時間となる。多言語対応ガイドや翻訳サポートが整っているプランも増えており、食文化を超えて、地域の人と触れ合える交流の場として高い人気を誇っている。

野菜の声、魚の目、土の香り──食べものは台所に届く前から、物語を持っている。親子で市場を歩いたその記憶が、いつか食卓での「いただきます」を、もっと深く、もっと温かいものに変えてくれる。