お店のカウンターに並ぶ、色とりどりの和菓子。桜の花びらを模したもの、金魚鉢のような透明感をたたえた寒天菓子、秋の山を思わせる茶色と紅葉の練りきり。名前を知らずに眺めているだけでも、美術館の展示のように楽しい。けれど、それぞれに込められた名前と意味を知ると、和菓子は一層深く、美味しさ以上の“物語”を語り出す。
「甘味処で和菓子の名前を当ててみよう」は、そんな美しい和菓子にふれ、食べるだけでなく“名づけて”楽しむ体験プログラムだ。目で見て、形や色から想像し、答えを聞いて「なるほど」と頷く。このプロセスそのものが、日本文化にふれる学びとなり、旅の記憶に残る甘くて知的なひとときになる。
体験は、老舗の和菓子店や甘味処、または文化施設と提携した茶席などで行われており、2〜5種類程度の和菓子が用意される。参加者は一つずつ和菓子を観察し、自由に名前を想像してみる。ヒントとして、季節や色の意味、使われている素材、和菓子によく使われる言葉の由来などが紹介されることもある。
たとえば、淡い桃色の菓子に緑の線が一本入ったもの。それは「花曇(はなぐもり)」という名前かもしれない。花が咲く季節の空の曇り具合を表す風情ある言葉で、その名を知ると、ただの色合いに思えたものが、一気に情景として立ち上がってくる。こうした発見が、和菓子に対する視点を大きく変える。
親子での参加も歓迎されており、子どもは直感で答え、大人は言葉の意味を考えて答えるなど、世代によって異なる楽しみ方ができる。中には子どもが思いついた独特な名前に、周囲の大人が笑ってうなずく場面もあり、食を通じた自由な表現の場としても魅力がある。
名前当てのあとには、答え合わせをしながら実際に和菓子をいただく時間が設けられる。お茶とともにいただく和菓子の味は、見た目だけでなく“名前を知ってから食べる”ことで、より深く心に残る。季節感や情景、和の言葉の響きが味覚に重なり、一つの小さな菓子から大きな文化の広がりが感じられる瞬間だ。
施設によっては、自分で名前をつけたオリジナル和菓子に、短冊を添えて展示するコーナーや、記念カードをつくって持ち帰る企画が用意されていることもある。自分の言葉が形として残ることで、体験はさらに記憶に残るものになる。
外国人旅行者にも人気が高く、多言語対応の解説や、和菓子の歴史や言葉の意味に関する英語パンフレットが用意されていることもある。日本の“言葉と季節を大切にする文化”への理解を深める機会として、国際交流イベントとして取り入れられることもあるほどだ。
和菓子は、味だけではない。かたち、色、素材、名前、そのすべてが“文化のかたち”として並んでいる。見て、考えて、食べて、笑って。そんな五感と想像力をフルに使った時間は、旅の中でもひときわ印象的なひとときになる。
今日食べた一つの和菓子が、数年後もふと季節の空気とともによみがえる。それが、日本の甘味が持つ、静かで強い力なのかもしれない。




