2025/07/03
寿司職人の技を見て、握って食べるワークショップ 本物の一貫にふれる、学びと味わいの体験

「すし」とひとことで言っても、そこに込められた技術と感性、そして“おもてなし”の心は想像以上に奥深い。プロの寿司職人が目の前で繰り広げる所作には、無駄のない動きと美しさがあり、食べる前から“味の記憶”が始まっているような気がする。「寿司職人の技を見て、握って食べるワークショップ」は、その魅力をただ味わうだけでなく、自らの手で握り、学び、食べることで、寿司文化の本質にふれる体験である。

体験は、寿司専門店や料理教室、または宿泊施設や観光地に併設された調理スペースなどで開催されている。まずは、プロの寿司職人による実演から始まる。包丁さばき、ネタの切り方、酢飯の扱い、握る手つき――それぞれが職人のリズムと美意識に支えられており、一連の動作を見ているだけで自然と背筋が伸びるような感覚になる。

実演のあと、いよいよ参加者が自分で寿司を握る番となる。用意されているのは、あらかじめ下処理されたネタと炊きたての酢飯。ガイドの指導を受けながら、手を水にぬらし、シャリを適量とり、形を整える。簡単そうに見える握りの所作が、実際にやってみると案外むずかしく、指先の力加減や手の温度、ネタの置き方ひとつで仕上がりが変わることを体感できる。

子ども向けのプログラムでは、サーモンや卵焼き、エビなどを使った色とりどりのにぎり寿司を中心に構成されており、楽しく遊びながら寿司を学べる工夫がされている。親子で参加する場合、子どもが初めて握った寿司を親が食べて「おいしい」と笑い合う時間は、何よりも記憶に残る瞬間となる。

握った寿司はその場でいただくことができ、味噌汁やお茶などと一緒に、ちょっとした“にぎりランチ”の時間が設けられる。自分の手でつくった寿司を口に運ぶと、見よう見まねで握ったシャリとネタの一体感に、素朴な感動が生まれる。プロの握りと比べてみたり、ネタごとの違いを感じたりすることも、味覚を育てる体験となる。

ワークショップによっては、寿司にまつわる知識や歴史、日本の食文化についての解説が用意されている場合もある。なぜ酢飯を使うのか、なぜ魚の切り方が重要なのか、江戸前寿司とは何か──そうした情報を知った上で寿司を食べることで、目の前の一貫に対する意識が変わる。

外国人旅行者にも非常に人気が高く、多言語対応のガイドや字幕つきの動画解説が用意されたプランが多数存在する。言葉に頼らずとも、手で握り、口に入れるという行為は万国共通であり、異文化理解の架け橋にもなる。帰国後、自宅で簡単な握り寿司に挑戦したという参加者の声も多い。

また、体験後には“寿司職人体験証”や、オリジナルの箸・まな板などの記念品が用意されていることもあり、旅の思い出を形にして持ち帰ることができるのも嬉しいポイントだ。

寿司は、ただ美味しいだけでなく、作る人の心と手が直に伝わる料理である。ひとつのネタに集中し、手のひらで整え、口に運ぶ。その過程にふれることで、食べるという行為がただの“摂取”から“体験”へと変わる。

旅のなかで、寿司という文化にじかに触れ、自分の手でその一貫を仕上げる時間。それは、日本の食の奥深さを知る、かけがえのない一皿になる。