“A5”だけでは語れない──和牛業界が抱える格付け制度のジレンマ

“A5”だけでは語れない──和牛業界が抱える格付け制度のジレンマ

飲食店のメニューや精肉店のPOPで見かける「A5ランク」の表示。それは、和牛が最上級の品質であるという一種の“ステータス”として広く認識されている。しかし、この「A5」という格付けが、果たして和牛本来の魅力や価値を正しく伝えているのかと問われれば、答えは一概には言えない。格付け制度は合理的な判断指標である一方で、生産者・流通業者・消費者の三者にとって、かえって“誤解”や“偏り”を生む原因となっている側面もある。和牛業界の根幹にある格付け制度が抱えるジレンマについて、表層では見えない構造を掘り下げてみたい。...
なぜ神戸牛だけがブランド化に成功したのか? 商標と流通戦略を探る

なぜ神戸牛だけがブランド化に成功したのか? 商標と流通戦略を探る

日本各地には数多くの和牛ブランドが存在する。松阪、近江、飛騨、米沢、宮崎──どれも全国的な知名度を持つが、そのなかで“神戸牛”は、国内外を問わず別格の存在感を放っている。海外の高級レストランで“Kobe Beef”の名前が並び、空港や百貨店でもひときわ高価な存在として扱われる。なぜ数ある和牛ブランドのなかで、神戸牛だけがここまで圧倒的なブランド力を築き上げたのか。その答えは、単に肉質の優秀さだけではなく、緻密に構築された商標戦略と流通管理にある。...
月に1回の和牛オークションで何が起きているか──兵庫県・但馬家畜市場の舞台裏

月に1回の和牛オークションで何が起きているか──兵庫県・但馬家畜市場の舞台裏

日本の高級和牛の代名詞ともいえる「神戸牛」。その源流にあたる但馬牛の取引が行われるのが、兵庫県にある「但馬家畜市場」である。ここでは月に1度、全国から関係者が集う和牛のオークションが開かれ、出荷される子牛の一頭一頭に対して真剣な駆け引きが繰り広げられる。華やかさとは無縁の静かな山間にあるこの市場で、和牛ブランドの“始まり”が日常的に行われている。その現場には、血統、目利き、価格形成、そして畜産文化そのものが凝縮されている。...
和牛生産は“契約飼育”が主流──肥育農家とブランド元の関係構造

和牛生産は“契約飼育”が主流──肥育農家とブランド元の関係構造

高級和牛が消費者のもとに届くまでには、いくつもの工程と人の手が加わっている。その中でも、肉牛として出荷するまでの最終工程を担う「肥育農家」の存在は極めて重要だ。和牛の品質を左右する脂の入り方や肉の締まり、体格、健康状態などは、この肥育の段階で決まるといっても過言ではない。そして近年、こうした肥育の現場においては“契約飼育”という形態が主流となっている。ブランド和牛が安定的に市場に供給される背景には、肥育農家とブランド元との間にある密接かつ複雑な関係構造がある。...
世界が注目するWAGYU  輸出額は10年で10倍超、日本和牛はなぜ売れるのか

世界が注目するWAGYU 輸出額は10年で10倍超、日本和牛はなぜ売れるのか

かつては国内消費が中心だった日本の和牛が、いまや“WAGYU”という国際的なブランドとして世界中で注目を集めている。その勢いは数字にもはっきりと表れており、農林水産省の統計によれば、日本産牛肉の輸出額はこの10年で10倍以上に急増している。主な輸出先は香港、アメリカ、シンガポール、タイ、台湾などアジア太平洋地域を中心に広がりを見せ、富裕層を中心にその需要は高まる一方だ。では、なぜ今、世界で“WAGYU”がこれほどまでに売れているのだろうか。その背景には、品質、文化、戦略、そしてタイミングという複合的な要因が絡んでいる。...
香港・シンガポール・ドバイ 和牛輸出先トップの実情とニーズ

香港・シンガポール・ドバイ 和牛輸出先トップの実情とニーズ

日本の和牛が世界中で高級食材としての地位を築くなか、特に輸出量が多い地域として挙げられるのが、香港・シンガポール・ドバイの三都市である。いずれも経済的に成熟し、外国人居住者が多く、外食文化が発達しているという共通点を持つが、和牛が求められる背景やニーズにはそれぞれ独自の事情がある。和牛輸出の戦略を考えるうえで、こうした地域ごとの“実情”を理解することは欠かせない。ここでは、この3都市における和牛需要の構造と消費者心理を深掘りする。 香港──中華圏の“和牛フロントライン”...